死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 14

目次へ


 アグロス=ナベルの『滅びの魔法』とは何なのか。
 俗説はいくつかあった。例えば、アグロス=ナベルは錬金術士で、トゥルーバニランが苦手とする金属を精錬することが出来た、というような。しかし、真実は歴史上の謎となっていた。
「母さんは、何か知ってる?」
 アルフがミナコに訊くと、彼女は首を振った。
「私は何も知らないのよね。父さんの――いえ、お義母さんの家のこと」
 ミナコの義母、そしてアルフの祖母にあたるカロリーナ=ナベル・クナイは、既に他界していた。
「父さんに聞いてみましょう。それが早いわ」
 ミナコはそう言った。
 アルフの父、イマール=クナイは、現在ファレンス国に単身赴任中だ。ヒノモト国との時差は七時間ほどあるので、向こうはまだ未明だろう。
「たぶん、三〇分ぐらいしたら起きると思うから」
 アルフが時計を見ると、二十一時半を少し回った頃だった。つまり、三〇分後のファレンス国は、朝五時ということになる。
 アルフの記憶の中の父はそれほど早起きではなかったが、きっと「問答無用で起こす」という意味なんだろうな、とアルフは解釈した。
「それまで、もう少しあなたの話を聞かせてくれる?」
 ミナコは真面目な顔で、改めてユーリーに頼んだ。
 ユーリーはこくりと頷いた。

     ◇

『……ふわぁ。なんだい、こんな時間に……って、そっちはまだ夜だっけ』
 三〇分後、リビングのテレビジョン・モニタに、寝起きのイマールの顔が映し出された。
「イマール、トゥルーバニランはわかるわよね?」
 ミナコは手短に話し始めた。
『それはもちろん。あの有名な』
「紹介するわ。トゥルーバニランのユーリーこと、ユーレディカさんよ。なんと今年で二九五歳になるんだって」
 ユーリーがモニタに向かってぺこりと頭を下げる。
『はぁ、これはどうも初めまして……って、ええぇぇーー!!!!』
 モニタ越しにイマールの絶叫が響いたが、ミナコが予めボリュームを絞っておいたおかげで、三人は耳を塞がなくても済んだ。
「驚いた?」
『あ、あぁ。驚いた驚いた。なんだ、お得意のジョークか。全く寝耳に水とはこのことだよ』
 ちょっとことわざの使い方が違うような? とアルフは思った。
「残念ながら本当よ」
『え? マジなの!?』
「イマール、悪いけど漫才をしている時間も字数もないわ」
 そういう方向に誘導していたのは母さんの方だったような……とアルフは思いつつ、何も言わないでおいた。
『あ、ごめんよ。……で、なんだっけ?』
「アグロス=ナベルの『滅びの魔法』の正体って知ってる?」
『なに、アグロス=ナベルの……? それも『滅びの魔法』か……』
「知ってるの?」
『ちょっと待ってくれ。確か……』
 イマールはしばし、思案する素振りを見せた。

『ごめん。さっぱりわからないや』
 十数秒ほど思案した挙句、イマールが笑顔でそう答えたので、アルフたち三人はズルッとずっこけた。
『お袋に昔、何か聞いたような気もするんだけど、忘れちゃった。今日、こっちにいるナベル家の者に連絡を取ってみるよ』
「え、えぇ……。お願いね」
 ミナコはソファに座る体勢を直しながら、答えた。
『それで、二人はもう、ユーリーからある程度話は聞いたの?』
「うん。ユーリーが十年前に死の眠りから目覚めて、ここにたどり着くまで、だいたいの経緯を聞いたよ」
と、アルフが答えた。
『なるほど。父さんにもざっくり教えてもらえるかな?』
と、イマールが言う。そこで、アルフはたった今、ユーリーから聞いた話を要約して、父に話した。
『……なんと。それは、すごい大冒険だったね。……こう言っていいかわからないけど、おめでとう』
 話を聞き終えて、イマールはユーリーに向かって言った。
「え……?」
 ユーリーは思わぬ言葉を聞いて、驚いた。ミナコもアルフも、その言葉には意表を突かれた。

第十四話に続く)


『小説家になろう』掲載作品