フェニックス

いつか映画で観た 火の鳥が 今はまぶたの裏で飛んでいる あの夏の夜 キャンプファイヤーで 炎は 高く 高く 空へと吸い込まれて行った 最後の薪が 燃え落ちるまで いま、一つの命の灯が 輝き放っている その灯が続く限り 私もまた 私の焔に薪をくべよう たと…

いつか詩人になれたなら 〜やさしく在りたい〜

いつか、 詩人になれたなら 君に、やさしい言葉を届けたい。 いつか、詩人になれたなら 世界を やさしい言葉で満たしたい 愛をささやき 光を尊び 瑕ひとつないきれいな言葉で 大勢の人に、やさしさを届けたい いつか、詩人になれたなら。 でも、 それだけじ…

天使と悪魔

左の部屋は 右扉の奥は 塵ひとつ無い バランスの狂った 清潔な部屋だった 奇怪な異次元空間だった 真っ白な部屋の中央に 空間の中央には 精巧な女神の像が どんな生物にも似つかぬ 飾られていた 異様な彫刻が在った 見るものを 人工物だとしても 虜にせずに…

ハイイロオオカミ未満の何かのなかの何か

私の世界はいつからか灰色になった。 先生も灰色。友達も灰色。家族も灰色。あなたも灰色。 灰色の世界の中を 灰色の私が動く 食べ物はどれも不味く 音楽はどれも歪んでいた 「」 喋っているのに 何を喋っているのかわからない 自分が何を喋っているのかわか…

跳躍

小高い丘に ひとりきり寝そべって 青空を見上げていた いつまでも 飽きることなく 刻一刻と変わる 白雲の表情を追い続けていた 吸い込まれそう そう思ったとき ふと 地面から体が離れた 重力から解き放たれ いや、反転し、 真っ逆さまに 空に落ちていく 空に…

アバター

あなたにだけは知られたくない あなたにだけは知ってほしい あなたになら教えてもいい 本当の自分を 現実を生きている私を 真実、死んでいるような私を そこにあるのは 薄く、確かな境界線 一線を踏み越えれば 二度と元には戻れない あなたと私を守る壁を 壊…

エレクトロニカル・パレード

「ほんとうの君」はどこ? そう問いたくなるときもあった。 「別に、いいじゃないか」 『君』は確かに此処にいる その実在が デジタルな信号に過ぎなくても、 私はそんな『君』に惹かれたのだから 会わない方がいいこともある 会ってしまえば、きっと会う前…

「一人 Twitter 連詩」をやってみて

先日、Twitter 上で「一人連詩」なる試みをやってみました。 連詩は、本来であれば複数人で行うものですが、「小説の連載があるのだから、詩の連載があってもよいのではないか」という発想が裏にはありました。 一人で少しずつ詠んでいく、という形でも成立…

オフライン ~アナザー・デイ~

ケータイを 家に忘れた メールも、ネットも、ゲームもできない。 何もできない。 誰にも、何も連絡できない。 私と世界を結ぶ線が 今、何もない。 今日は一日、オフライン。 何をしていいか わからない 当て処なく 街をさまよう 道端の猫に愛想をかけてみる …

オフライン

ケータイを、家に忘れた。 帰る家をなくしたような 不安で落ち着かない気分 どうしていいのか わからない 私をどこかに繋ぐ線が、いま、何もない。 がたんごとん ふと、揺れる電車の鼓動に気づく ぷしゅっとドアが開く 靴音がホームに広がる 太陽がまぶしく…

マリアージュ

あなたと、わたし 別々の 役割を持って 同じ台地に 生を享け 暖かい海に この身を捧げる ああ、やっとひとつになれたね 灼熱のマグマで どろどろに融け合い 互いの境界線さえ 失った ――ラストダンス 誰かと誰かを結ぶため。 「踊ろうか」 彼の言葉に、私は耳…

夏の日

「川を渡ろう」 夫が手招きする。 私は目を見張りつつも、差し伸べられた手をとる。 夫が淵に進んでいく。ねえ、と声を掛けるが止まらない。 夫は肩まで川に浸かり、頭を沈めた。 私は手を振り解こうとするが、できない。 苦しい。息ができない。 ブラックア…

"T"へ

明日はあなたとのつながりがひとつ、なくなる日です。ふつうの人よりは軽く考えていたかもしれません。が、それによって私とあなたとの間の「何か大切なモノ」がなくなるとは、私は感じません。 今までありがとう。そしてこれからも、よろしくお願いします。…

見送る人

川があった。 大きな川だった。 その川の中腹に、一人で立っていた。 ときどき、強い風が吹く。 そのまま川面に倒れ込んで、 流れに身を任せてみたくなる。 いつしか、辺りは暗くなっていた。 夏の夜の闇。 遠くから 祭り囃子が響いてくる 一つ、また一つと …

答えなき答え

崩れかかった建物の前、男が一人うずくまっている。 時折耳を揺らす物音に、顔を上げては、また下ろす。 とりわけ、人の足音には敏感に。 ――また、あんたか。 と、男は声にならない声で言う。 いつの間にか、音もなく老人が立っている。 ――もう、放っておい…

もうひとつのサーカス

薄暗いテントの中は、思ったよりもやや手狭だった。 小さな席に腰掛けると、隣の人と肩が触れ合うほどだった。 「すみません」 と、頭を下げながら、子連れの親が席を立つ。 私は何をすることもなくケータイの画面を眺めながら、開演を待った。 暗く 静まり…

星に願いを

会いたくて 今すぐ君に会いたくて 駆け出しそうになるけれど 僕がどんなに手を伸ばしても 君の足元にも届かない だから うんと努力しよう いつか 君と 肩を並べて 歩けるように いつの日か 君の隣に寄り添えたとき その輝きに 負けないように 君と同じだけ …

サーカス

彫刻の道化が 舞台の上に佇んでいる 暗闇のなかで 誰かが固唾を呑む音がする 彫刻が 手を振り出した先に 三振りの剣が現れた 剣は 次々に道化を離れ 宙高く飛び上がっては また道化の顔上に戻る 一つとして同じ軌跡なく 乱雑な無秩序でありながら 完全な制御…

いつか詩人になれるなら

いつか詩人になれるなら 世界中を旅して回ろう 草原を駆ける羊たちの群れを 湖に映る青空の影を 収穫を願う人々の踊りを 感じたものを 感じたままに 言葉に紡ぎ出せるように 世界中を旅して回ろう いつか詩人になれるなら 世界中でうたをうたおう 理不尽な暴…

脱皮

影が降ってきた 大空を駆ける 彼女の影だった 触れたら崩折れるような 薄く脆い羽根を 無心に震わせて 切り裂くような 叫び声で 灼けるような夏を 眩しいほどに 謳歌していた 私は彼女の影を追った 母なる樹から 生命を失くした脱け殻が 音もなく落ちた 墓標…

夢のカタチ

子どもの頃、夢を語る友だちがいた。 僕には、語るべき夢はなかった。 それは あまりにあいまいすぎた 僕には 目の前にあるものしか見えてなかった。 目の前の目標だけを 懸命にクリアしてきた。 進学校に入ったから、大学に入った。 研究者になりたくなかっ…

青と白の海

淡い青の海があった 何人も 触れることは叶わなかった 海には 気まぐれな白い雲たちが棲んでいた 好き勝手に海を漂流しては 群れを成し 山のように積み重なって 次々に形を変えながら 青い空海を 埋め尽くしていた 遮るもののない 太陽の光が そんな雲々の陰…

って

前触れもなく 出逢って 目が合って 語って 惹かれ合って 焦がれて もう一度 出逢って もっと引かれて 手を取り合って 求めて 確かめ合って 抱きしめて 見つめて 笑って でも わかり合えなくて 「それでもいいじゃん」 と、あなたは言った。

ゴミ箱の夢

小学校の卒業アルバムには 「僕の夢」という題で書かれた作文があった 何も知らなかった頃に 間に合わせで書いた 他愛もない夢 日中のオンラインゲーム世界の中は 比較的 閑散としていた いるのは学生やフリーターなど 暇を持て余している者たちなのだろう …

火の鳥

火炉から伝わる振動で 室内の空気が震えていた 重い隔壁に遮断されているにもかかわらず バーナーの熱が 鼻を焦がすようだった 外では 遮るもののない太陽が 青空にただ一点 光と熱を放っていた 硬いジュラルミンの台に 足を乗せ 隔壁にある たった一つの小…

かたちのない針

ヤマアラシなあなたは いつも なにかと考え無しに 針という針を 逆立てて 誰かれ構わず 体当たり あなたが喋ると みんなが黙る あなたが通ると みんなが避ける あなたが怒ると 誰もが謝る だけど 針の届かない 壁の向こうでは みんながあなたを笑ってる 物笑…

ありがとう

「ありがとう」 って言ってほしくて 親切するのは、 偽善だって 誰かが言ってたけれど ありがとうって 言ってもらえると こそばゆくて うれしくて いい気分になるから また、いいことをしよう って思えるんだよね。 だから、僕も言うよ 「ありがとう」ってね

輪(わ)

心臓の音が聞こえる 満員の観客席が静まりかえり 演技を見守る 終了十秒前を知らせるブザーが鳴り 最後のタンブリングを駆ける 響き渡る着地の音 フィニッシュを決めた両手は 拳を握りしめた しなやかな剣先が 胴を捉えた 赤のランプが光る 諦めかけていた観…

「ただいま」「おかえり」「また明日」

苦しくて 悲しくて みじめで 涙が込み上げるとき 誰にも相談できず 抱え込んで その重さに 圧し潰されそうなとき どうか、負けないで 生きることを 諦めないで 誰だって 一人きりで生まれてきたわけじゃない あなたの命を かけがえなく思っている人は きっと…

ある晴れた日に〜映画『おおかみこどもの雨と雪』を観て〜

太陽がだんだんと高く上っていくころ 草むらではバッタやテントウムシが跳ね回り 林ではミンミンゼミが はちきれんばかりに鳴いている 私は鍬を振るう手を休めて 汗をぬぐった もうすぐ 秋作の植え付けの時期だ 昼前に、郵便配達のおじさんがやってきた 娘が…