2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

星に願いを

会いたくて 今すぐ君に会いたくて 駆け出しそうになるけれど 僕がどんなに手を伸ばしても 君の足元にも届かない だから うんと努力しよう いつか 君と 肩を並べて 歩けるように いつの日か 君の隣に寄り添えたとき その輝きに 負けないように 君と同じだけ …

サーカス

彫刻の道化が 舞台の上に佇んでいる 暗闇のなかで 誰かが固唾を呑む音がする 彫刻が 手を振り出した先に 三振りの剣が現れた 剣は 次々に道化を離れ 宙高く飛び上がっては また道化の顔上に戻る 一つとして同じ軌跡なく 乱雑な無秩序でありながら 完全な制御…

詩のボクシング大会を観戦して

昨日、第12回詩のボクシング大会、及び、第4回声と言葉のボクシング大会が横浜で開催された。 私は一人電車で会場に赴き、両大会を観戦してきた。ひと月ほど前までは大会の日程すら知らなかったのだが、ちょうどこのブログの記事を書いているときにポエトリ…

いつか詩人になれるなら

いつか詩人になれるなら 世界中を旅して回ろう 草原を駆ける羊たちの群れを 湖に映る青空の影を 収穫を願う人々の踊りを 感じたものを 感じたままに 言葉に紡ぎ出せるように 世界中を旅して回ろう いつか詩人になれるなら 世界中でうたをうたおう 理不尽な暴…

風の駅(3/3)

第1話 第2話 フューに再会して七日後の早朝、ヴェントは誰よりも早く目を覚まし、馬とともにそっと王城を抜けだした。 嵐が来ていた。 強風に草は折れ、木は傾いでいた。馬が進むことをためらっていた。ヴェントは生まれて初めて、馬に鞭を振った。 風の駅か…

風の駅(2/3)

第1話 初めてシルフに会ってからというもの、ヴェントはよりいっそう足繁く、風の駅に通うようになった。最初の頃はシルフが現れるのを今か今かと待ち構えていたが、シルフは警戒心が強いという伝承を思い出し、敢えて何もせずに草地で寝そべったり、紙片に…

風の駅(1/3)

そこは、風の駅と呼ばれていた。 山間の窪地だった。四方に延びる道から風が吹き込み、また、出て行く場所だった。 ヴェントは今日も馬を駆り、一人でこの地を訪れていた。山は春を迎え、色とりどりのイチリンソウが風の駅を彩っていた。馬から下りると、彼…

生と負(9/9)

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 「神倉君が警察に知らせてくれたんだね」 松田バイオテクノロジーソリューションズ株式会社の在津市研究所所長が、警察の事情聴取のために連行された翌日、悟と清香はいつものように森が丘高校に登校してい…

生と負(8/9)

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 「罪を償おうとは考えていないんですか?」 そう尋ねたのは清香だった。「所長」は大きく息をついた。 「私の首一つで済むのなら、そうするんだがね。このプロジェクトには、我々の夢が懸かっているんだ。今更、…

生と負(7/9)

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 広い部屋だった。手前側に低いガラステーブルを挟んで、二脚のソファがあり、奥に大きなデスクがあった。学校の校長室のようだ、と清香は思った。 デスクに、壮年の男が腰掛けていた。どうやら、この施設で最も権威を持…

生と負(6/9)

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 その後、坂下は二件の電話を掛けた。一件目の電話で、移動のための車を手配したようだった。話しぶりからして、相手は同輩以下の立場と察せられた。 二件目の電話は、あたかも上司に対する部下の報告という雰囲気だった。 「…

生と負(5/9)

第1話 第2話 第3話 第4話 「四国犬と違うところはいくつかあります」 悟は一歩、足を前に踏みだして、坂下に向かって語りだした。 「例えば、臼歯の大きさや足の付き方、足あとの形ですね」 実は、オオカミと犬には、遺伝学的な差はないとされている。いずれ…

生と負(4/9)

第1話 第2話 第3話 清香としては、目の前の動物がオオカミであるか否かは、ある意味どうでもよかった。 「そいつが、あの女の子を殺したんじゃないの?」 ざわざわした嫌な予感の正体はそれだった。二日前に、幼い女の子の命を奪ったのは、この獣ではないか…

生と負(3/9)

第1話 第2話 悟の家は、塀と庭がある一軒家だった。父親の仕事の関係で、両親は一年前から海外で暮らしており、今は悟一人で住んでいることを、清香は聞いていた。なので、家の門からおじいさんが出てきたときには、清香は驚いた。 近所に住む、樋渡さんだと…

生と負(2/9)

第1話 清香の問いかけに対して、悟は「いいや」と首を振った。 「なんでよ」と、清香は口を尖らせた。 悟ははっきりとは答えず、「うーん」と何か考えている様子だった。やがて、何かに思い至ったように、「あぁ、そうか」と言った。 「なによ」と再度、清香…