2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

生と負(1/9)

小さな棺が、葬儀場から運び出された。 水城清香は、棺を乗せた霊柩車が走り去って行く様子を、傍らの母とともに見送った。 遺族もまた、タクシーで火葬場に向かった。残されたわずかな人々が、大きな息をつくのが感じられた。 寂しさと、悲しさと、やるせな…

魂のリレー(3/3)

第1話 第2話 「あなたも、薫の教え子の一人なんですね」 仲川薫の夫、良一はナムホンを屋内に招き入れてくれた。 ナムホンは俯いていた。まだ、彼女が亡くなっていたことのショックから抜けだせずにいた。 「やっと、病気を克服したときだったんですよ」 ぽ…

魂のリレー(2/3)

第1話 更に、四ヶ月後。ナムホンは熊本にいた。彼は、リストアップした「仲川薫がいる可能性がある道場」を訪ねながら、九州を南から北へ縦断していた。相変わらず手がかりはなかったが、ある道場の女将が気になることを言った。 「そう言えば、間宮さんのと…

脱皮

影が降ってきた 大空を駆ける 彼女の影だった 触れたら崩折れるような 薄く脆い羽根を 無心に震わせて 切り裂くような 叫び声で 灼けるような夏を 眩しいほどに 謳歌していた 私は彼女の影を追った 母なる樹から 生命を失くした脱け殻が 音もなく落ちた 墓標…

小説とライトノベルの違い

小説とライトノベルの違いは、明確なようでいて、境界線上ではやや曖昧な気がする。 そもそも、この違いは大多数の人にとってはどうでもいいことだろう。 小説だけ読む人や、ライトノベルだけ読む人はいるかもしれないが、その人たちにしても、小説だから、…

魂のリレー(1/3)

仙台駅の東口から外へ出て、ナムホンは日本に来たのだという実感をいっそう強く持った。 初めて彼女に出逢ってから、ずっと憧れていた国だ。十二年前、彼女がナムホンの母国を訪れ、幼いナムホン達にカラテを教えてくれた時から、ナムホンはいつか必ず日本を…

詩を書く意味

「誰でもできて、すぐにでも始められる。それが詩だと思う。」 と、昔つぶやいたことがある。ある人によれば、日本では大衆が詩を書く文化が根付いているのだそうだ。 確かに、学校教育の中で詩(俳句、短歌を含む)を書いたことがない人はおそらく稀だろうし…

夢のカタチ

子どもの頃、夢を語る友だちがいた。 僕には、語るべき夢はなかった。 それは あまりにあいまいすぎた 僕には 目の前にあるものしか見えてなかった。 目の前の目標だけを 懸命にクリアしてきた。 進学校に入ったから、大学に入った。 研究者になりたくなかっ…

青と白の海

淡い青の海があった 何人も 触れることは叶わなかった 海には 気まぐれな白い雲たちが棲んでいた 好き勝手に海を漂流しては 群れを成し 山のように積み重なって 次々に形を変えながら 青い空海を 埋め尽くしていた 遮るもののない 太陽の光が そんな雲々の陰…

って

前触れもなく 出逢って 目が合って 語って 惹かれ合って 焦がれて もう一度 出逢って もっと引かれて 手を取り合って 求めて 確かめ合って 抱きしめて 見つめて 笑って でも わかり合えなくて 「それでもいいじゃん」 と、あなたは言った。