死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 15

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 ――「おめでとう」ってどういう意味?
 誰かがそれを訊ねるより早く、テレビジョン・モニタの中のイマールが話しだした。

『ゴールはまだだけど、あなたは目的通り、アグロス=ナベルの末裔にたどり着いた。きっとゴールも近いよ』
 イマールの言葉に、ミナコも頷いていた。
「……」
 ミナコはアルフが浮かない顔をしていることに気づいた。
「アルフ、どうしたの?」
「いや……」
 ミナコが訊ねると、アルフはユーリーの顔をちらっと見て、口ごもった。彼にしては珍しい、曖昧な態度だった。
 アルフはユーリーに訊ねた。
「『滅びの魔法』が見つかったら、君は死んじゃうんでしょう」
「そう願ってる」
 ユーリーはにべもなく答えた。
「そう、だよね……」
 アルフは、その後に続く言葉を飲み込んだ。
 しかし、ミナコには、アルフが飲み込んだ言葉に察しがついた。彼女は自然に笑顔になった。
 そんなアルフとミナコの態度をカメラ越しに見て、イマールもなんとなくその場の雰囲気を察した。

『楽しんだらいい。アルフ、ユーリーに色々案内してあげなさい。きっと、セイキョウ都で見たことがない場所も多いでしょう』
 イマールがそう言うと、ユーリーは不機嫌そうな顔つきになった。
「ごめんなさい。私は……」
『すまん、息子は出不精でね。こういう機会でもないとなかなか出歩かないんだ。「滅びの魔法」についてはこちらでしっかりと調べてみるから、一つ、頼まれてくれないかな?』
 アルフは、きょとんとした顔つきで二人のやりとりを見ていた。父さんは何を言ってるんだろう。
「そこまで言うなら……」
 ユーリーは渋々といった様子で頷いた。イマールは『ありがとう』と礼を言った。
『アルフ』
 イマールがもう一度、アルフに声を掛けた。
『これは人生の先輩としてのアドバイスだが、もし好きな女の子が出来たら、その子の好みなんかをよく見て、把握するようにした方がいいぞ』
 アルフは素直に頷いた。
「わかった。覚えておくよ」
 我が子ながら面白くない反応だな、とファレンス国からイマールは思った。
 一方のミナコは、こみ上げてくる笑いをこらえるのに必死だった。

『一つだけ、いいかな?』
 話の最後に、イマールがユーリーに質問した。
『あなたのフルネームを聞かせてくれるかい?』
 ユーリーは大きく息を吸い込んで、答えた。

「ユーレディカ=ラーズ・クルサナ」

     ◇

 時は、三時間ほど前に遡る。

 もう下校時刻を過ぎていたが、サクラ=ミズチは体育館に残り、バスケットボールのシュート練習を続けていた。
 夏季公式戦、トキワガオカ高校女子バスケットボール部は、都大会予選の決勝で惜敗した。最後の試合の記憶は、サクラにとって新しい。人一倍練習していたサクラは、その晩、悔しさで眠れなかった。
 それが引退試合となったサクラは、もう今後、部活動で試合に出ることはない。だが、昼間の件でむしゃくしゃしていたこともあって、サクラは今日、思いっきり体を動かしたい気分だった。

 がんっと、放った何十本目かのスリーポイントシュートがリングに弾かれたとき、見回りに来た体育教師が大声を発した。
「おい、早く帰れ!」
 気づくと、広い体育館にはサクラ一人しか残っていなかった。無心になってシュートを放っている内に、みんな下校してしまったらしい。
 サクラは仕方なく、帰り支度を始めた。

(……やばっ。もうこんな時間)
 着替えを終えて体育館の外に出ると、サクラが思っていたよりも遅い時刻になっていた。急がなければ、高校前発のバスが終わってしまう。
 サクラはバス停に向かって走った。

第十五話に続く)


『小説家になろう』掲載作品