北風さんと太陽さん(2/2)

第1話

「どうしてだい、南風さん?」
 北風さんには、南風さんの言葉をすんなりと受け止めることはできませんでした。
「お前、自分が大気のバランスを崩してるってこと、気づいてねえのか?」
 南風さんは今まで吹いていた北風が止むことで、色んな気候変動が起こることを指摘しました。
 しかし、単なる大気圧の問題だと考えた北風さんは、次のように反論しました。
「大気圧のことを言っているのかい、南風さん? 心配はご無用だよ。
 実は僕は平地では強く吹くことを止めたけれど、上空では激しく吹いているのさ。だから、空気はちゃんと北から南に循環しているんだぜ」
「……てめえ、ドヤ顔してやがるが、気温や降水量の変化は考えたのか」
「なんだって」
 それまで得意気に語っていた北風さんでしたが、南風さんの言葉に対して、さっと顔色を変えました。
「てめえが吹かないことで、気温が上がったり下がったり、雨や雪が降らなく地域が出てくるんだぜ。そしてそれは、その地域の植生や動物たちにも影響しちまう。
 ……見ろ。そこらへんの動物たちだって、もう餌になる草や木の実がなくなって、飢え死にしそうになっちまってるじゃねえか」
「そんな……」
 北風さんはすっかり言葉を失って、意気消沈してしまいました。
 何もかも、南風さんの言う通りでした。
「南風さん、僕はいったいどうしたらいいんだい?」
「一も二もねえよ。吹きすさべ。それだけだ」
「でも、それじゃ……」
 みんなの嫌われ者だった以前の状態に逆戻りじゃないか。
 北風さんはそう思いながらも、二の句を接ぐことができませんでした。明らかに自分が間違っていると思ったからです。
「いいか、愛なんてもんはな、求めて手に入れるもんじゃねえんだよ」
 南風さんは言いました。
「向こうから勝手にやって来るのが愛なんだ。相手に気に入られようとするんじゃねえ。自分と相手にとって、一番を選べ」
 その言葉は、思い悩んでいた北風さんに、がつんと響きました。
「わかったよ、南風さん」

 それから北風さんは、元通り北の冷たい寒気を南に向かって強く吹きつけるようになりました。
 厳しい冬の寒さに、命を落とす生きものたちもありましたが、冬が終わり、春が訪れると、また力強い命の鼓動が芽吹き始めました。

「ねえ、太陽さん」
 だんだんと早起きするようになってきた太陽さんに、ある日北風さんが尋ねました。
「なんだい、北風くん」
「太陽さんはどうしていつも、そんなに燦々と輝いていられるんだい?」
 太陽さんは少し黙って考えました。
 そして、こう答えました。
「……さあ、わからないな。私は気づいたときからずっと燃え続けていたから。
 私にできることは、ただこの輝きを均しく皆に送り届けることだけなのだよ」
 北風さんは、わかったように大きくうなずきました。
「ありがとう、太陽さん」
「どういたしまして、北風くん」

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イラスト: 柳野マリー(@mary_yagino)様

(完)