死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 2
第一章
「私を殺して」
初対面の僕に向かって、少女はそう言った。
彼女の全身は真っ赤な血にまみれていた。
周囲には、人の気配はない。
僕は後ずさりしながらも、彼女の手を振り払えずにいた。
声の出し方さえ、思いだせずにいた。
◇
『……ピピピピピピピピピッ!!』
ヘッドボードの上で、アラーム音がけたたましく鳴り響いた。
――今日は、この日か。
アルフレッド=クナイは月に約一回、悪夢にうなされて目を覚ますことがあった。
不思議なことに、いつも夢の内容自体は記憶から抜け落ちている。ただ、嫌な夢を見た、という感覚だけが胸に残っている。
「――え?」
この日はいつもと違うことがあった。アルフレッド――アルフは、その一点に気がついた。
こめかみを熱い涙が伝っていた。夢を見ながら、泣いていたのだ。
いったい、どんな夢を見ていたというのか。
アルフはしばらく夢の記憶を掘り返そうと試みたが、その糸口さえ掴めなかった。
アルフは諦めてベッドを降りた。遅刻してしまう。シャワーを浴びて、寝汗を洗い流さなければ。
「おはよう。――どうしたの、目が真っ赤よ」
ミナコ=クナイはバスルームから出てきた息子にそう、声を掛けた。ダイニングテーブルの上には、バランスの整った朝食が並べられていた。
いつもの夢を見たようだけど、今日はいつもと違った、とアルフは母に説明した。ミナコは「そう」とだけ言った。それだけで納得したらしい。
アルフは朝食を終えると、手早く身支度を済ませた。自室のドアに掛けたカレンダーを見る。一月十五日。あと二週間ほどで夏休みだ。
「行ってきます」
玄関でスニーカーを履き終えて、アルフは母に声を掛けた。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
ミナコは笑顔で手を振った。
マンションから外に出ると、抜けるような青空が広がっていた。
もう、梅雨はとっくに明けていた。暑い一日になりそうだった。
(第二話に続く)
『小説家になろう』掲載作品