死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 6
「――ジェームズ、何か用?」
アルフは、何ら警戒することもなく、訊いた。
ジェームズ=ハズウェルというのが彼の名だ。彼は訊かれて、屈託のない笑顔を見せた。
「覚えていてくれたのかい。自己紹介が必要かと思ったよ」
だが、サクラはなぜか、その笑顔を薄気味悪く感じた。
そして、その予感はある意味で当たっていた。
ジェームズは言った。
「アルフレッド。聞くところによると、君はあのアグロス=ナベルの血筋を引いているそうじゃないか」
その言葉に、ざわざわとしていた周囲の喧騒が、ふっと止んだ。
なんだって。ナベル家? あの『ローマニラの薔薇期』の?
ひそひそと、そんな声が聞こえてくる。
サクラを含め、クラスの半分ほどの生徒が世界史の授業を受けたその翌日だった。そのため、「アグロス=ナベル」という歴史上の人物の名は、より大きな影響力を持っていた。
いったい、誰が。サクラは思った。
クラスメートとはいえ、ジェームズとアルフに大した接点はなかった。誰がジェームズに話したというのか。
「――誰から聞いたの?」
サクラの内心の疑問を、アルフがあまりに自然に訊ねるので、彼女は少々、驚いた。
そうだった。この自然体こそが、サクラのよく知る幼馴染の少年の強みだった。
「ニケから聞いたんだよ。なあ、ニケ」
ジェームズは悠々とした態度で、少し前の方の席に座っていた男子を振り返った。
「あ、あぁ……」
ニケと呼ばれた少年は、ばつが悪そうな顔で答えた。
そうか、ニケか。サクラは若干の落胆を感じつつ、納得もした。
彼は、アルフやサクラとは小学校からの付き合いで、確かアルフの祖母カロリーナの葬儀にも参列していた。であれば、知っていても不思議はない。
「ニケ、なんで言うのよ」
サクラはわざと恨めしそうな声を出して、言った。
「いやぁ、別に……」
ニケは困ったような顔をして、頭をぼりぼりと掻いた。まったく、気が利かない困ったやつだ。と、サクラは内心で思った。
「――で、それがどうかしたの?」
アルフの声は明瞭に響いた。周囲はすっかり静まり返り、四人のやりとりに注目していた。
多くのクラスメートは、アルフの表情からその真意を読み取ることはできなかっただろう。ジェームズも少し困惑しているような気がした。が、サクラはなんとなく、アルフは単純に思った疑問を口にしているだけだろうな、と思った。
「気を悪くしたようだったらすまない」
と、ジェームズは前置きした。
「なに、単純に興味があってね。アグロス=ナベルは不可思議な能力を以って、『トゥルーバニラン』たちを殲滅したという。だとしたら、その子孫である君にも不思議な力があるのかな、と」
ジェームズの言葉に、静まり返っていた周りのクラスメートたちが再びざわざわと話し始めた。
アルフは少し考えて、答えようとした。
「僕は――」
チャイムが鳴った。
ホームルーム開始の合図だ。
絶妙なタイミングだった。
「悪い。続きはまた後で聞こうか」
ジェームズは不敵に笑って、席に戻った。
折よく、担任教師が3−Aの教室に入ってきた。その後、いつも通りのホームルームが行われた。
ジェームズがその日、話の続きをしに来ることはなかった。
(第六話に続く)
『小説家になろう』掲載作品