イマ × ソラ

「――今後、SNSの利用を控えてもらえる?」

 風紀委員の今井琴音は、クラスメートの天知颯太という男子にそう注意をした。
 ネットによる個人情報の流出が問題になる時代だ。琴音は生徒会からの依頼で、SNSの利用で特に問題のある生徒たちに注意を行うことになった。

「なんで?」
 颯太はきょとんとしていた。
 琴音は呆れて溜め息をついた。きっと、この男子には自覚がないのだ。
「あなたがSNSにたくさん写真を投稿していると聞いたの。写真には位置情報が付くでしょう」
 颯太は少し考えてから、こう答えた。
「えーと、TwitterとかFacebookの場合、位置情報はアップロード時に自動で削除されるんだけど」
「……え、、そうなの」
「うん」
 琴音の知らない事実だった。後日、画像をダウンロードして確かめたところ、確かに位置情報は消えていた。

「……で、でも、人が写ってたりしたら問題よ」
「まあそうだけど、基本、風景しか撮ってないし」
「風景だって、知っている人が見たら、場所がわかることだってあるでしょう?」
 琴音が食い下がると、颯太はゴソゴソとズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、「ほら」と、彼女に画面を見せた。

「…………」
「――これでも問題になる?」
 琴音は首を横に振った。

 そこには、空の写真しかなかった。

 抜けるような青空の写真を見て、琴音は「いい写真ね」と言った。
 颯太は、「だろ?」と、歯を見せて笑った。


※追記
あとがき書きました。 → 『イマ × ソラ』のあとがき - 言葉の種を植える場所