死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 12

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 アルフは一人、ダイニングテーブルの席に座り、二人を待っていた。
 まず、シャワーを浴び終えたユーリーが部屋に入ってきた。改めて少女の姿を目にして、アルフの心臓は早鐘を打ち始めた。
 彼女の肌が白いのはわかっていたが、実際には陶器のように肌理の整った肌だった。室内灯に照らされ、その顔立ちも改めてはっきりとわかった。大きくつぶらな両の目に、すっと通った上品な鼻筋、その下にしっとりと濡れ光る小さな薄唇があった。まるで、愛らしいファレンス国製の人形のようだった。
 アルフは目の前の少女が、先刻までの血と埃を纏った人間とは別人のように感じた。
 少年は、なぜだか自身の心臓の鼓動が速いのを感じていたが、自分ではその理由がわからず、平静に映るように装った。
「それ、前と後ろ反対だよ」
 ユーリーはアルフが二、三年前に着ていたTシャツを着ていたが、フロントのプリントが背面に回っていた。
 アルフが指摘すると、ユーリーは無造作にシャツを脱いで、着直した。
(うわっ!)
 アルフは慌てて視線を逸らした。ユーリーは下着を着けておらず、服を着直す間に裸の上半身が露わになった。そこには、女性らしい胸の膨らみもあった。
 ユーリーは何事もなかったかのように、テーブル上の料理の配置を眺めて、アルフの隣の椅子に腰を下ろした。だが、アルフはしばらくの間、彼女を直視することができなかった。
「何かあったの?」
 アルフの不自然な挙動が気になったユーリーは、上目遣いに訊ねた。その距離は五十センチもない。
 顔が熱いのを感じながら、アルフは精一杯の平静さで「なんでもない」と答えた。

 そこにミナコが戻って来た。
「アルフ、どうしたの? 顔が赤いけど。暑いかしら?」
「なんでもないって」と、ユーリーがアルフに代わって答えた。
 ミナコは声を上げて笑った。
「まるで、可愛い妹ができたみたいね」
 私の方が遥かに歳上だけど、と少女は言った。

     ◇

「トゥルーバニランって本当?」
 ミナコがユーリーに訊ねると、少女は頷いた。
 夕食後、三人はリビングのローテーブルを囲むL字形のソファに腰掛けて、話していた。アルフとユーリーが並んで座り、ミナコが二人と斜めに向かい合った。
 主にアルフとミナコが、ユーリーから話を聞く形になった。少女は自身の出生や、ローマニラ国からヒノモト国にたどり着くまでの経緯について話した。それは、常識では考えられない、驚くべき内容だった。
「私が生まれたのは、あの悪夢のような戦争が始まったのと同じ年よ」
 『ローマニラの赤い薔薇期』のことだ。内戦が勃発したのは正史一七二九年なので、ユーリーの年齢は二九五歳ということになる。
「死んだのは、十三歳のとき。セビュー村とビストラ村は、そのときにはもう滅びてた。私が生まれたクルサナ村にも、ローマニラ国の軍隊が押し寄せようとしてた」
 トゥルーバニランたちは内戦が始まる前、その三つの村に分かれて暮らしていたそうだ。
「死んだ?」
 ミナコとアルフの声が重なった。
 ユーリーはこくりと頷いた。
「私の家族と村の人たちは、私を奴らに殺されたくなかった。だから、薬を使って死んだのと同じ状態にしたの。そして、棺に入れて埋葬したのよ」

第十二話に続く)


『小説家になろう』掲載作品