家鳴り

家鳴りがした。

海外出張と帰省を終えて、2週間ぶりに東京で一人暮らしするアパートに戻ってきたときのことである。
30秒毎に「ピシッ」と、金属製の弦が切れるかのような音がする。
不審に思って家具を調べたりするが、異常はない。どうやら床そのものから聞こえてくるようである。
「下の住人が何かやっているのだろうか」とも思った。このときは家鳴りだとは思っておらず、原因がわかっていなかったので、後で管理人さんに相談しようかとも思った。
なにせ、このアパートに4年近く住んでいて、こんな物音がするのは初めてのことだったのだ。
ともかく、このままではぐっすりと眠るのに支障を来たしそうなので、耳栓を買わないとな、でも、耳栓をすると急なメールなどが来た時に困るな、などと考えていた。

すると不思議なことに、出かける直前になって、この音が止んだようであった。
私は深く考えないことにして、とりあえず家を出た。

夜遅く帰宅すると、音は復活していた。
なんなのだろうと思いながら、でも眠かったので意外と寝れそうな気がして、そのままベッドに潜り込んだ。案の定、間もなく寝ついた。

4時過ぎ頃に目が覚めた。
空気が冷たく澄んでいるせいか、音は寝る前に比べて大きく響いているような気がした。
そういえば、と私はひとつ思いだしたことがあった。出張に出る前に、ケータイのアラームを切っておくのを忘れていた。帰ってきたときには電源が切れていたが、数日間は毎朝6時に鳴り響いたことだろう。両隣の部屋の人には迷惑をかけたかもしれない。
この音はもしかしたら、その報復なのかもしれない。
だが、どうやってこんな音を出すものを仕込んだのか、全く検討がつかなかった。
もうひとつ思ったのは、いわゆるラップ音というやつではないか、ということである。実家から死んだ父の霊を引き連れて来てしまったのかもしれない。そう考えると、背筋に冷たいものが走るような気がした。
ややあって、やっぱり家鳴りじゃないだろうかと思った。こんなアパートで家鳴りなんて起こるのだろうかと思い、いつもの習慣でケータイを取り出して、Googleさんに聞いてみた。

どうやらアパートでもあるらしい。
気温の低下による木材の収縮などによって起こるそうな。
何年かほっといたら治るとか云々。でも暖房をつかったりすると治らないとか云々。

なるほど。
さっき出かける前に音が止んだのは、暖房をつけて部屋が温まったからだったのだな。
では暖房をつければ音が止むか、と思って暖房をつけたところ、しばらく経って音は止んだ。
2週間も留守にしている間、部屋がかつてないほど冷え込んで、家鳴りを起こしたのだろう、と推測された。

とりあえず、帰宅したら暖房をつけるようにすれば、まあ大丈夫そうだ。ってかふつうそうするし。

ちなみに家鳴りって、「やなり」と読むのですね。ずっと「いえなり」だと思ってました(汗)