サイレン

ぴちゃり。

水の音がする。
目が覚めて、眠っていたことを思い出す。
朦朧とする意識が具象と化し、二秒前まで見ていた夢が霧散する。

ベッドから、素足で床へ降りる。
ひんやりとした感覚が足裏を包む。立ち上がると、思考はより覚醒へ向かう。
窓から吹く風に、揺らぐカーテン。月光が床に格子の影を落とす。
こんな夜更けに目覚めてしまう自分を、もう受け入れてしまった私がいる。

立ち眩みを感じて、私はベッドに腰を下ろした。
遥か遠い地上から、サイレンの音が聞こえてくる。消えたはずの夢の記憶が掻き起こされる。
ポン、と肩に手を置かれた気がして、振り返る。誰もいない。
もう一度、腰を上げる。

白い壁に接した棚には、引き裂かれた写真立てと、サボテンの鉢が。
兄弟のように寄り添う、二本の若樹。兄より一年若い弟は、まだ生きている。

玄関近くのキッチンには、辛うじて月の明かりが差していた。
きゅっと蛇口を絞り、水を切る。
一度、カランを逆に捻る。コップに水を満たし、飲む。
むせて、吐き、咳き込む。何度か。
鏡を見ると、見たこともない顔をした男が映り、自笑する。

部屋に戻る。
サイレンの音は、もう聞こえない。
私は鉢から弟樹を引き抜くと、乱雑にゴミ箱に投げ捨てた。

ベッドに潜る。
目を閉じるが、棘が刺さった右の掌がずきずきと痛み、眠れない。



ぴちゃり。

また、水の音がする。