死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 4

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「イマールさんなら何か昔のこと、知ってるかなと思って」
 登校バスの中で、サクラはそう言った。
 自動運転のバスは、いつものように通学路上の停留所を回りながら、学校に向かっていた。

 『ローマニラの赤い薔薇期』とは、今を遡ること約三百年前、正史一七二九年から一七四二年まで、十三年と十三日間をかけて行われた内戦の歴史である。
 当時、「トゥルーバニラン」と呼ばれた人々がいた。ローマニラ王国の建国以前から同国のトゥルーバニラ地方に居住していた民族だ。国教であるルーメン教を信じない異教徒の集団でもあり、人々とは生活や文化の面で一線を画していた。
 この内戦は、ある商人がトゥルーバニランに殺されたことに端を発した。やがて、時の国王イシュトバーン三世が軍を挙げ、抗戦を続けたトゥルーバニラン民族を鎮圧し、結末を迎えた。……いや、それは鎮圧というよりは、虐殺だった。戦いは、トゥルーバニランが一人残らず殺されるまで続いた。

「異常だよね……。ひとつの民族が滅びるまで戦いが続くなんて」

 いつだったか、この史実を知ったサクラはそう言った。
 アルフは幼い頃から、父イマールにこの凄惨な歴史について、何度か聞かされていた。そのアルフにとって、サクラの感覚は新鮮でもあった。

「何を聞きたいの?」
 登校バスの中、片手で吊り革を掴んだまま、アルフは訊き返した。
「そうね。特に気になるのは、やっぱり『アグロス=ナベルの魔法』かな」
 片手で手すりを掴んだまま、サクラは答えた。
 なるほど、とアルフは思った。

 イマールの母、つまりアルフの父方の祖母の名はカロリーナ=ナベル・クナイといった。彼女はファレンス国生まれだったが、ナベル家の祖先であるアグロス=ナベルは『ローマニラの赤い薔薇期』の頃、ローマニラに住んでいた。
 その「魔法」が、この内戦で大いに活躍した、と歴史に伝えられている。

 大勢のトゥルーバニランたちを死に至らしめるために。

「お祖母ちゃんから、何か聞いてたかもね」
 アルフは言った。

 カロリーナ=ナベル・クナイはもうこの世にいない。昨年の一月、たくさんの人に見送られて、その波乱に満ちた生涯に幕を閉じた。

 アルフは「父に連絡しておく」と、サクラに約束した。アルフ自身も気になる疑問だった。ファレンス国との時差は七時間。休日の方が都合がよさそうだ。
「ありがとう、アルフ」
 サクラはにっこりと笑って言った。

 登校バスは、アルフたちが通うトキワガオカ高校に到着するところだった。

第四話に続く)


『小説家になろう』掲載作品