死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 5

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 海外の教育事業者が開発した先進コンピューター・システムをいち早く取り入れたトキワガオカ高校では、実技を除く半数以上の講義はコンピューターによるインタラクティブ・ビデオ方式に置き換わっていた。一方で、従来型のホームルーム制度は健在だった。
 このトキワガオカ高校のコンピューター・システムは、元の製品名から<トールシステム>と呼ばれていた。

 アルフとサクラは3−Aの教室に入ると、空いていた隣同士の席に座った。自分の席という概念は、この高校にはない。どの席にもシンクライアントの端末が付属しており、指先をタッチパッドに添えるだけで、<トールシステム>内の自分専用のユーザー環境にログインすることができる。
 ホームルームの開始までは、もう少し時間があった。二人はそれぞれ端末にログインすると、メールボックスや校内ニュースのチェックを行った。

「アルフ、これ……」

 サクラが小声で話し掛けてきた。
 システム内に作られた3−Aクラスのチャットルームで、ある時事ニュースが話題になっていた。その記事の見出しはこうだった。

『三年前の旅客機に華国からの密航者』

 <グローブネット>と呼ばれる公共のネットワーク上にアップロードされた記事だった。
 元の記事は<トールシステム>からはアクセスできないサイトのものだったが、校内の誰かが記事データを<トールシステム>にコピーしたらしい。

 華国は、ヒノモト国と海を隔てた東側の大陸に位置する大国で、古くから交流が盛んに行われている、縁の深い国である。

「三年も前のことが、なんで今頃……?」
 アルフがつぶやいたが、サクラにもわかるはずがないことだった。

 華国からヒノモト国への不法入国者が捕らえられるというニュースは、ときどき報じられることがあった。不法入国者たちは、その度に華国へ送還されている。
 しかし、三年も前の事件が今頃になって発覚するというのは、異例中の異例である。しかも、その密航者はまだ発見されておらず、今もヒノモト国内のどこかにいるらしい。

「なんか、まだ他にも見つかってない密航者とかいそうな気がしてくるよね」
 サクラの言葉はもっともだったが、アルフには「そうかもね」としか言えなかった。

 そのニュースが掲載されたサイトは、どちらかといえばアンダーグラウンド寄りのニュースを多く扱うサイトだったので、まだ鵜呑みにはできなかった。ただし、航空会社や便名まで特定されており、それらが実在のものなので、信憑性があるように思われた。
 事実だとしたら、航空会社は数日以内に公式な発表を出すことになるだろう。記者会見もあるかもしれない。

「――少し、いいかい?」

 声は、唐突にした。
 アルフの席の前に、同じ3−Aクラス内の男子が立っていた。
 細身の男子だ。背はアルフよりも少し高いぐらい。

 アルフもサクラも、これまで彼とは、ほとんど会話さえしたことがなかった。

第五話に続く)


『小説家になろう』掲載作品