エビル・コスチューム (6/6)

目次


 ドスンッ!

 カンナは渋谷センター街入り口のツタヤ前で、ふと意識を取り戻した。隣を歩いていたマサキが、落ちていた空き缶に足を滑らせた。カンナもそれに巻き込まれ、二人仲良く派手にすっ転んでしまったのだった。
 どうやら一瞬、意識を失っていたらしい。なぜだか、すごく長い夢を見ていたような気がする。
「もう、何やってんのよ!」
 カンナは立ち上がりながら、毒吐いた。マサキは「いてて……」と地面に手を突いて呻いている。
 時刻は一九時ごろ。スクランブル交差点の周辺は、思い思いに仮装した人々がひしめき合い、異様な盛り上がりを見せていた。ところどころに警官が立ち、周囲を警戒している。今のところ、大きな騒ぎは起こっていないようだ。
「ほら、起きて! ライブもう始まってるじゃない」
 カンナはマサキの手を取って、起こした。
 立ち上がったマサキは、きょろきょろと辺りを見回した。カンナは怪訝な顔をした。
「どうしたの?」
「……いや、さっきまで誰かもう一人、一緒にいなかったっけ?」
 何言ってるのよ、とカンナはマサキの言葉を打ち消した。ハチ公付近で待ち合わせてから今まで、ずっと二人で行動していたではないか。

 カンナは何気なく、自分のポーチの中を手で探った。
(あれ?)
 家を出る前に、飴玉をそこに入れていたと思ったのだが、いつの間にかなくなっていた。
(……なんだ、これ?)
 カンナは、なくなった飴玉の代わりに、そこに入っていた物を取り出してみた。真っ白な、鳥の羽根のようだった。まあ、いいか。と、カンナはそれをポーチの中に戻した。

 カンナはマサキの手を引いて、目当てのクラブに向かって走った。


 翌日、始発でアパートに帰宅したカンナは、昼過ぎになって目を覚ました。
 寝ぼけ眼をこすりながら、テレビを点ける。ニュースが流れていた。渋谷で拳銃を所持していた無職の男が逮捕されたらしい。物騒な話だ。幸い、死者もけが人も出なかったようだ。

 ピンポンと、玄関から呼び鈴の音が鳴った。  カンナは「はーい」と返事をしたが、その後も呼び鈴は二、三度連続して鳴った。
 ……うるさいな。そんなに何度も鳴らさなくても、聞こえてるよ。
 カンナはのろのろと立ち上がると、適当に上着を羽織って、玄関のドアを開けた。
 初対面の女がそこにいた。年齢はカンナと同じか、もっと若いかもしれない。格好はやや大人びているが、少女のようなあどけない顔をしていた。
「こんにちは、初めまして。今日からお隣に越してきた、有野理恵と申します」
 彼女の背後で、引越業者らしい制服の男たちが、家具を隣の部屋に運び込んでいた。

 どこかでお会いしたことありましたっけ。と、カンナはその女性に訊ねた。

(終)


小説家になろう掲載作品