風の駅(3/3)
第1話
第2話
フューに再会して七日後の早朝、ヴェントは誰よりも早く目を覚まし、馬とともにそっと王城を抜けだした。
嵐が来ていた。
強風に草は折れ、木は傾いでいた。馬が進むことをためらっていた。ヴェントは生まれて初めて、馬に鞭を振った。
風の駅から、更に東に進んだところに、この国の最高峰であるカグノー山があった。その最も高い崖は、飛竜の顎と呼ばれていた。城を出て二時間が経つ頃、ヴェントは顎の先端に立っていた。
ヴェントは懐中時計を取り出した。巷の有名な職人が作った精巧な時計だった。
フューが指定した「その刻」が近づいていた。
自分に恐怖に打ち克つことができるのか、という疑問はあった。剣の師から「命知らず」と評された彼ではあったが、人並みに恐怖を感じる気持ちはあった。ヴェントは大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着かせた。
時計の針が七時を指した。飛竜の顎に、一段と強い風が吹いた。
ヴェントはその風目がけ、跳んだ。風に煽られながら、真っ逆さまに谷底へ落ちてゆく。彼は恐怖をかき消すように、大音声で叫んだ。
崖を半分ほど落ちても、何も変化はない。ヴェントはただ叫びながら、自身がシルフに変化するのを待った。
気づくと傍らに、フューがいた。風に乗って、彼女の声が届いた。
「馬鹿ね。シルフになんて、なれるわけないじゃない」
数秒後、ヴェントは谷底の岩に頭から激突した。
風の駅と呼ばれたその地には、後にもう一つ別の名がついた。
死出の駅と。
(完)
フューに再会して七日後の早朝、ヴェントは誰よりも早く目を覚まし、馬とともにそっと王城を抜けだした。
嵐が来ていた。
強風に草は折れ、木は傾いでいた。馬が進むことをためらっていた。ヴェントは生まれて初めて、馬に鞭を振った。
風の駅から、更に東に進んだところに、この国の最高峰であるカグノー山があった。その最も高い崖は、飛竜の顎と呼ばれていた。城を出て二時間が経つ頃、ヴェントは顎の先端に立っていた。
ヴェントは懐中時計を取り出した。巷の有名な職人が作った精巧な時計だった。
フューが指定した「その刻」が近づいていた。
自分に恐怖に打ち克つことができるのか、という疑問はあった。剣の師から「命知らず」と評された彼ではあったが、人並みに恐怖を感じる気持ちはあった。ヴェントは大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着かせた。
時計の針が七時を指した。飛竜の顎に、一段と強い風が吹いた。
ヴェントはその風目がけ、跳んだ。風に煽られながら、真っ逆さまに谷底へ落ちてゆく。彼は恐怖をかき消すように、大音声で叫んだ。
崖を半分ほど落ちても、何も変化はない。ヴェントはただ叫びながら、自身がシルフに変化するのを待った。
気づくと傍らに、フューがいた。風に乗って、彼女の声が届いた。
「馬鹿ね。シルフになんて、なれるわけないじゃない」
数秒後、ヴェントは谷底の岩に頭から激突した。
風の駅と呼ばれたその地には、後にもう一つ別の名がついた。
死出の駅と。
(完)