ハロウィーン企画小説「エビル・コスチューム」後書きに代えて
こんにちは!
木枯らしが吹く季節になりました。
ハロウィーンが終わり、街はこれからクリスマス色に染まっていきますね。
さて、ブログ読者様につきましてはご存知のことと思いますが、先週月曜から10月31日土曜にかけて、ハロウィーン特別企画と称して短編小説を連載していました!
連載開始2日目に書いた紹介記事がこちらです:
ハロウィーン特別企画・短期連載小説「エビル・コスチューム」に寄せて(目次込み) - 言葉の種を植える場所
目次もこちらの記事に含まれていますので、まだ本編を読まれてない方は、こちらからどうぞ。
ここで、タイトルの「エビル・コスチューム」について、ネタ明かしをしておきます。
といっても、最後まで読んでいただけた方はお気づきかと思いますが。
Evil=「邪悪な」という意味なので、直訳すると「邪悪な衣装」となりましょうか。
カンナとマサキの仮装もまあ、そうで、カボチャ男も一応それに該当しますね。
隠し玉としては、実はリエも仮装してました、ということでした。
最初はもう少し短い話になると思っていましたが、カボチャ男のシーンを分けたり、投稿前に推敲している内に、気づいたら一万字を超えちゃっていました。
読んでいただいた方、感想いただいた方、TwitterやFacebookで拡散・いいねしていただいた方、もろもろありがとうございました!
全体的な反響はというと、正直、まだまだというところですが、今後もっと多くの人に小説を読んでもらえるように、引き続き頑張りたいと思います。
実はもう、クリスマスの短編も少し考えていたのですけど、連載よりは、一話完結の読み切り形式で、読者を増やしつつ腕を磨いた方がいいかもな、とも思ったり。
(そもそもブログで小説を書くのってどうなんだろう、という気持ちも少し有り)
なんだか、まとまりがなくなってきましたが……
今後ともよろしくお願いします。
それでは、またどこかでお目に掛かりましょう☆
死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 12
アルフは一人、ダイニングテーブルの席に座り、二人を待っていた。
まず、シャワーを浴び終えたユーリーが部屋に入ってきた。改めて少女の姿を目にして、アルフの心臓は早鐘を打ち始めた。
彼女の肌が白いのはわかっていたが、実際には陶器のように肌理の整った肌だった。室内灯に照らされ、その顔立ちも改めてはっきりとわかった。大きくつぶらな両の目に、すっと通った上品な鼻筋、その下にしっとりと濡れ光る小さな薄唇があった。まるで、愛らしいファレンス国製の人形のようだった。
アルフは目の前の少女が、先刻までの血と埃を纏った人間とは別人のように感じた。
少年は、なぜだか自身の心臓の鼓動が速いのを感じていたが、自分ではその理由がわからず、平静に映るように装った。
「それ、前と後ろ反対だよ」
ユーリーはアルフが二、三年前に着ていたTシャツを着ていたが、フロントのプリントが背面に回っていた。
アルフが指摘すると、ユーリーは無造作にシャツを脱いで、着直した。
(うわっ!)
アルフは慌てて視線を逸らした。ユーリーは下着を着けておらず、服を着直す間に裸の上半身が露わになった。そこには、女性らしい胸の膨らみもあった。
ユーリーは何事もなかったかのように、テーブル上の料理の配置を眺めて、アルフの隣の椅子に腰を下ろした。だが、アルフはしばらくの間、彼女を直視することができなかった。
「何かあったの?」
アルフの不自然な挙動が気になったユーリーは、上目遣いに訊ねた。その距離は五十センチもない。
顔が熱いのを感じながら、アルフは精一杯の平静さで「なんでもない」と答えた。
そこにミナコが戻って来た。
「アルフ、どうしたの? 顔が赤いけど。暑いかしら?」
「なんでもないって」と、ユーリーがアルフに代わって答えた。
ミナコは声を上げて笑った。
「まるで、可愛い妹ができたみたいね」
私の方が遥かに歳上だけど、と少女は言った。
◇
「トゥルーバニランって本当?」
ミナコがユーリーに訊ねると、少女は頷いた。
夕食後、三人はリビングのローテーブルを囲むL字形のソファに腰掛けて、話していた。アルフとユーリーが並んで座り、ミナコが二人と斜めに向かい合った。
主にアルフとミナコが、ユーリーから話を聞く形になった。少女は自身の出生や、ローマニラ国からヒノモト国にたどり着くまでの経緯について話した。それは、常識では考えられない、驚くべき内容だった。
「私が生まれたのは、あの悪夢のような戦争が始まったのと同じ年よ」
『ローマニラの赤い薔薇期』のことだ。内戦が勃発したのは正史一七二九年なので、ユーリーの年齢は二九五歳ということになる。
「死んだのは、十三歳のとき。セビュー村とビストラ村は、そのときにはもう滅びてた。私が生まれたクルサナ村にも、ローマニラ国の軍隊が押し寄せようとしてた」
トゥルーバニランたちは内戦が始まる前、その三つの村に分かれて暮らしていたそうだ。
「死んだ?」
ミナコとアルフの声が重なった。
ユーリーはこくりと頷いた。
「私の家族と村の人たちは、私を奴らに殺されたくなかった。だから、薬を使って死んだのと同じ状態にしたの。そして、棺に入れて埋葬したのよ」
(第十二話に続く)
『小説家になろう』掲載作品
エビル・コスチューム (6/6)
ドスンッ!
カンナは渋谷センター街入り口のツタヤ前で、ふと意識を取り戻した。隣を歩いていたマサキが、落ちていた空き缶に足を滑らせた。カンナもそれに巻き込まれ、二人仲良く派手にすっ転んでしまったのだった。
どうやら一瞬、意識を失っていたらしい。なぜだか、すごく長い夢を見ていたような気がする。
「もう、何やってんのよ!」
カンナは立ち上がりながら、毒吐いた。マサキは「いてて……」と地面に手を突いて呻いている。
時刻は一九時ごろ。スクランブル交差点の周辺は、思い思いに仮装した人々がひしめき合い、異様な盛り上がりを見せていた。ところどころに警官が立ち、周囲を警戒している。今のところ、大きな騒ぎは起こっていないようだ。
「ほら、起きて! ライブもう始まってるじゃない」
カンナはマサキの手を取って、起こした。
立ち上がったマサキは、きょろきょろと辺りを見回した。カンナは怪訝な顔をした。
「どうしたの?」
「……いや、さっきまで誰かもう一人、一緒にいなかったっけ?」
何言ってるのよ、とカンナはマサキの言葉を打ち消した。ハチ公付近で待ち合わせてから今まで、ずっと二人で行動していたではないか。
カンナは何気なく、自分のポーチの中を手で探った。
(あれ?)
家を出る前に、飴玉をそこに入れていたと思ったのだが、いつの間にかなくなっていた。
(……なんだ、これ?)
カンナは、なくなった飴玉の代わりに、そこに入っていた物を取り出してみた。真っ白な、鳥の羽根のようだった。まあ、いいか。と、カンナはそれをポーチの中に戻した。
カンナはマサキの手を引いて、目当てのクラブに向かって走った。
翌日、始発でアパートに帰宅したカンナは、昼過ぎになって目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすりながら、テレビを点ける。ニュースが流れていた。渋谷で拳銃を所持していた無職の男が逮捕されたらしい。物騒な話だ。幸い、死者もけが人も出なかったようだ。
ピンポンと、玄関から呼び鈴の音が鳴った。
カンナは「はーい」と返事をしたが、その後も呼び鈴は二、三度連続して鳴った。
……うるさいな。そんなに何度も鳴らさなくても、聞こえてるよ。
カンナはのろのろと立ち上がると、適当に上着を羽織って、玄関のドアを開けた。
初対面の女がそこにいた。年齢はカンナと同じか、もっと若いかもしれない。格好はやや大人びているが、少女のようなあどけない顔をしていた。
「こんにちは、初めまして。今日からお隣に越してきた、有野理恵と申します」
彼女の背後で、引越業者らしい制服の男たちが、家具を隣の部屋に運び込んでいた。
どこかでお会いしたことありましたっけ。と、カンナはその女性に訊ねた。
(終)
小説家になろう掲載作品
エビル・コスチューム (5/6)
それは、あっという間の出来事だった。
「リエ……? 何してるの? 早く逃げて!!」
突然、自分たちの前に立ちはだかった悪魔姿の女性に向かって、カンナは叫んだ。
ジャック・オー・ランタンを被った黒衣の男は、銃口を真っ直ぐリエに向けている。
だが、リエは逃げなかった。彼女は大声で言った。
「あーあ、楽しいお祭りが台無しじゃない。せっかくいい気分だったのに!」
声には怒気が込められていた。事実、彼女は怒っていた。
リエの言葉をかき消すように、カボチャ頭の男は銃を撃った。弾丸は彼女の左腕をかすめ、後方のスターバックスの窓ガラスを割った。黒いレオタードスーツが裂け、彼女のパープルの肌が露出した。
リエはそれを全く意に介さない様子で、無防備にカボチャ頭の男に向かって歩いて行った。
「リエ! 危ない!!」
カンナがまた叫ぶ。
黒衣の男が拳銃を連射した。だが不思議なことに、銃弾は一発もリエに当たることはなかった。銃口から飛び出した弾丸は、リエの体に達する前に、宙空で消滅していた。
なんだ、この女は。
男は焦燥を感じていた。たった今まで、誰もが自分に怯えていた。引き金を引くだけで簡単に人が死ぬことに、彼は快感を覚えていた。なのに突然、悪魔のコスプレをした妙な女が、自分に立ち向かってきた。まるで、男のことなど恐れるに足りないと言うかのように。
なぜ、銃が効かない。
撃鉄がカチカチと音を立てた。男は装填した銃弾を撃ち尽くしてしまった。
男の脳内に巣食う謎の黒い影が、大きな警鐘を鳴らしていた。それに呼応して、男は本能的に強い危機感を感じた。
悪魔姿の女――リエが、男に近づいてくる。もう男との間の距離は数歩もない。
男は拳銃を放り、コートの内ポケットからサバイバルナイフを引き抜いた。腰だめに構え、リエの左脇を狙って思いっきり突き刺す。
リエはナイフを左手で受け止めた。ナイフの刀身が飴細工のようにぐにゃりと曲がる。男は、彼女に傷ひとつ付けることができなかった。男が突き出した右拳は、リエに掴まれることになった。
リエはそのまま男の懐に入り、彼の胸部に鋭い掌底を放った。掌は男の胸を数センチ陥没させ、男を十メートルほど後方に吹っ飛ばした。男は背中から倒れ、天を仰いだ。と見えた直後、男は人間離れした動きで体全体をひっくり返し、蛙のような四つん這いの体勢になった。
男の全身から、よりいっそう凶々しいオーラが放たれていた。
「コロ……シテヤル」
男は呪詛のような言葉を吐き、四つん這いの体勢から全身のばねを使って、あり得ない速度で前方に跳躍した。一直線に、リエが立っていた空間を薙ぎ払う。リエはふわりと黒い羽根をはためかせ、左上空に避けていた。
リエはそこから空中でくるりと前方宙返りをして、カボチャの面を被った男の首の付根に、右の踵を振り下ろした。その威力は、まるでクレーン車が大きな鉄球を地面に落としたかのようだった。男を中心にアスファルトにひびが入り、衝撃波が戦いを見守っていたカンナにまで達した。
カボチャ頭の男は、ぐったりとうつ伏せに倒れた。普通の人間であれば、即死していただろう。男の手指が、ぴくぴくと痙攣していた。
リエがカンナたち二人の前に立ちふさがり、カボチャ男を制圧するまで、一分にも満たない出来事だった。
リエは、気絶している男の頭に向かって上体を屈めた。続いて、男が被ったジャック・オー・ランタンを紙切れのように引き裂く。そして、そのまま地面に膝をついて、男を仰向けに抱え起こした。
男は、二十代前半から半ばほどと見られた。顔面には血管が浮き出て、赤黒く変色していた。頭髪は逆立ち、さながら羅刹か鬼のようだった。
「低級悪魔のくせに、手を焼かせてくれたわね。……さあ、お出でなさい」
リエは男の顔に右手をかざし、鈴の音のような声で何事か唱えた。
ややあって、男の口からドロリと、黒いサンショウウオのような姿の何かが抜け出してきた。リエは、それの体を素早く右手で捕まえた。
「ここで滅してしまうのは簡単だけど、私がやると角が立つから……。向こうの世界にお帰りなさい」
リエは、両手でその黒い生き物を空に掲げた。それはふつっと虚空に消えた。
先ほどまで、カボチャの面を被っていた男の様子が変化した。まるで憑き物が落ちたかのように、本来の穏やかな表情を取り戻し、安らかな寝息を立てていた。
「マサキ……リエが助けてくれたよ。ねえ、聞いてる?」
カンナの目から涙がこぼれ、マサキの頬を濡らした。その腕に抱かれたマサキは、しかし、返事をすることはできなかった。
彼はもう、呼吸をしていなかった。その体からは、徐々に命の温もりが消えつつあった。
リエが、カボチャの男を撃退して戻って来た。激しい戦いの直後にも関わらず、彼女は息ひとつ乱していなかった。
この子は何者なのだろう。本物の悪魔なのだろうか。
少なくとも、カンナにはもう、同じ人間とは信じられなかっただろう。だが、何者だろうと、カンナにとってリエはリエだった。
「リエ……、マサキが……。マサキが動かないよぉ……」
カンナの視界は涙で歪んでいた。
リエは頷いて、カンナの前で跪いた。
「……ごめんね。まさか、こんなことになるなんて。招かれざる者のせいで、多くの命が失われてしまった。残念だけど、全部なかったことにするしかないわね」
リエの口調は、三人で遊んでいた先ほどまでとは違って、大人びていた。
「リエ……? 何を言ってるの……?」
「今日はありがとう。本当に楽しかったわ」
リエは立ち上がると、何もない空間から木の杖を取り出し、天を仰いだ。そして、祈りを捧げるかのように長い呪文のような言葉を唱えた。
杖全体が淡い光に覆われ、その上端から眩い光が発せられた。杖に呼応するように、リエ自身の体も仄かな黄金の光に包まれていた。
……眩しい。
カンナは目を細めながらも、視線をリエから外すことはしなかった。
リエの体に変化が起こった。髪が銀色から金色に、角と尾は消え、肌は薄紫色から小麦色に、黒いコウモリの羽根は、純白の翼に変わった。着衣も、黒いレオタードスーツから、白いワンピースに変化した。
「天使……?」
カンナが呟いた。リエはくすっと笑った。
「ハロウィーンにちなんで、ちょっと仮装してたの」
リエは光輝く杖の先端を高く天に掲げた。光の奔流が溢れ、カンナの視界は真っ白になった。全てが白い光に覆われ、目の前にいるはずのリエの姿さえ見えなくなってしまった。
真っ白な光の向こう側から、リエの声が聞こえた。
「私の本当の名前は、アウリエルって言うの」
しかし、その言葉をカンナが記憶することはなかった。
渋谷の街は、眩い光の奔流に包まれた。
(第六話に続く)
小説家になろう掲載作品
エビル・コスチューム (4/6)
「じゃあ、俺たちはこれからクラブに行くから」
マサキがリエに対して言った。
三人はカラオケを終えた後、渋谷センター街入り口のツタヤ前まで、歩いて来ていた。
「楽しかった! また遊んでね」
リエは無邪気に笑った。
カンナは、リエの顔を改めてじっと観察した。その薄紫色の肌は、やはり何度見ても地肌にしか見えなかった。蜜柑を食べすぎると肌が黄色くなるというが、何を食べればこんな色になるのだろうか。
「……何? 私の顔、なにか付いてる?」
カンナに見つめられて、リエは怪訝な表情をした。
「ううん、なんでもないよ。また会おうね」
カンナは慌てて両手をばたばたと振った。きっとリエには、特殊メイクのプロの知り合いがいるのだろう。カンナはそう思うことにした。
パンッ パパンッ
マークシティ方面から、何かが弾けるような音が聞こえてきたのは、三人が今にも別れようとしていたときだった。
「いまの、なに?」
カンナは初め、誰かが大きなクラッカーを続けざまに鳴らしたのかと思った。だが、直後に恐怖が入り混じった悲鳴が聞こえ、人波が動きだしたので、何か様子がおかしいことに気づいた。
「なんだあれ? やべぇな。早く行こうぜ」
マサキが言う。だが、カンナは好奇心から、騒ぎの正体が気になった。
「待って。人がこっちに来る」
大量にクラクションの音が鳴っていた。赤信号にも関わらず、人々が叫び声を上げながら、次々にスクランブル交差点に飛び出してくる。
「何かあったんですか?」
カンナは、セクシーな婦警のコスプレをした女性を掴まえて、そう訊ねた。
彼女はそれどころじゃないという剣幕だったが、カンナを振り返ると興奮した口調で話した。
「鉄砲、撃ったんだよ! あり得なくない? ここ日本だよ! 絶対ヤクザだ、あいつ」
その後ろから同じような格好をした女性がもう一人走ってきた。二人は一緒に行動していたようだ。「あっち行こっ!」二人組の女性は、井の頭通りの方へ走り去って行った。
「鉄砲……」
カンナはその非日常な単語を呟いた。普段の生活からかけ離れていて、現実感がなかった。だが、実際に逃げ惑う人達がいる。
パンッパンッ
また音が鳴った。
それが銃声なのだと、カンナとマサキにもわかるほど、音は近づいてきていた。
スクランブル交差点を走っていたスーツ姿の女性が、頭から血を噴き出して前のめりに倒れた。後から走ってきた人々が彼女にぶつかり、あるいは足を取られ、二、三人が更に転んだ。
「う、うわあぁぁ!!」
転んだ一人の男性が仰向けになって後方を振り返り、叫んだ。その視線の先を追うと、大きなジャック・オー・ランタンを頭に被った、黒いコートの男が拳銃を構えていた。
銃声が響く。叫んだ男性の胸から血飛沫が上がり、彼は地面に倒れた。
カボチャ頭の男を見て、リエの顔色が変わったことに、カンナとマサキは気づかなかった。いや、薄紫色のままではあったが。
「嘘……」
カンナは目を見開き、首を小さく左右に振った。とても、目の前の光景が現実とは思えなかった。悪い夢を見ているのではないか。彼女は恐怖のあまり、腰が抜けて地面に座り込んでしまった。
「おい、カンナ! どうしたんだ、立てよ。逃げるぞ!」
マサキがカンナの腕を掴んだ。
「あ……、あれ……」
カンナが片手を上げて、スクランブル交差点の方を指差す。
カボチャ頭の男が銃を構え、ゆっくりと近づいてきていた。表情は見えないが、銃口はカンナたちに向けられているようだった。
「まじかよ、くそっ!!」
マサキは怒声を吐きながら、カンナを庇うように立ち、彼女を両手で抱え起こそうとした。
パンッ
「うっ……」
どしん、とマサキの体に振動が走った。背中を撃たれた。ごほっ、とマサキは血を吐いて、カンナにもたれかかるように倒れた。
「マサキ……? 何してるの? 逃げるんじゃないの?」
マサキの口がパクパクと動くが、声にならない。
また、発砲音が何度か鳴った。今度はカボチャ男が撃ったのではない。拳銃を手にした警官隊が駆けつけ、カボチャ男を取り囲んでいた。カボチャ男は何発も被弾し、体のあちこちから血を流していた。にも関わらず、彼は倒れなかった。
「どうなってるんだ!?」
「ば、化け物……」
カボチャ男も拳銃で応戦した。一人、また一人と警官たちが撃たれて、倒れて行った。「機動隊はまだか!!」少し離れた場所で、一人の警官が叫んでいた。
カボチャ男は空になった弾倉を銃から取り出し、ぎこちない手つきで予備の弾倉に入れ替えた。そして、またカンナ達に銃口を向けた。
「いや……来ないで」
カンナはマサキを抱えたまま、涙を流して懇願した。
そのときだった。
カンナとマサキを守るかのように、悪魔姿の小柄な女性が二人の前に立ちはだかった。
(第五話に続く)
小説家になろう掲載作品