2012-01-01から1年間の記事一覧

かたちのない針

ヤマアラシなあなたは いつも なにかと考え無しに 針という針を 逆立てて 誰かれ構わず 体当たり あなたが喋ると みんなが黙る あなたが通ると みんなが避ける あなたが怒ると 誰もが謝る だけど 針の届かない 壁の向こうでは みんながあなたを笑ってる 物笑…

北風さんと太陽さん(2/2)

第1話「どうしてだい、南風さん?」 北風さんには、南風さんの言葉をすんなりと受け止めることはできませんでした。 「お前、自分が大気のバランスを崩してるってこと、気づいてねえのか?」 南風さんは今まで吹いていた北風が止むことで、色んな気候変動が…

北風さんと太陽さん(1/2)

あるところに、かわいそうな北風さんがいました。 北風さんは動物たちが大好きなのに、北風さんが近づくと、その強い風によってみんな逃げ隠れてしまうのです。 北風さんは思いました。 「いつもにこにこと明るくて、人気者の太陽さんみたいになりたいなぁ」…

ありがとう

「ありがとう」 って言ってほしくて 親切するのは、 偽善だって 誰かが言ってたけれど ありがとうって 言ってもらえると こそばゆくて うれしくて いい気分になるから また、いいことをしよう って思えるんだよね。 だから、僕も言うよ 「ありがとう」ってね

輪(わ)

心臓の音が聞こえる 満員の観客席が静まりかえり 演技を見守る 終了十秒前を知らせるブザーが鳴り 最後のタンブリングを駆ける 響き渡る着地の音 フィニッシュを決めた両手は 拳を握りしめた しなやかな剣先が 胴を捉えた 赤のランプが光る 諦めかけていた観…

「ただいま」「おかえり」「また明日」

苦しくて 悲しくて みじめで 涙が込み上げるとき 誰にも相談できず 抱え込んで その重さに 圧し潰されそうなとき どうか、負けないで 生きることを 諦めないで 誰だって 一人きりで生まれてきたわけじゃない あなたの命を かけがえなく思っている人は きっと…

ある晴れた日に〜映画『おおかみこどもの雨と雪』を観て〜

太陽がだんだんと高く上っていくころ 草むらではバッタやテントウムシが跳ね回り 林ではミンミンゼミが はちきれんばかりに鳴いている 私は鍬を振るう手を休めて 汗をぬぐった もうすぐ 秋作の植え付けの時期だ 昼前に、郵便配達のおじさんがやってきた 娘が…

私の戦うべき場所

二度目のオーディションの通知を開いて また閉じて 私は宙を見上げて 大きなため息をついた。 失望と落胆 悔恨と 少しの安心 自分を試したかった 何が成せるのか 知りたかった でも その舞台にすら立てなかった 太陽は 今日もフォルティッシモで輝いている …

365日

気がつけば、 Facebookの友達の数は とっくに一年の日数を超えてた。 一日一人ずつ会っても、 一年間じゃ足りない。 そう考えると、 一年にたった一日でも 一人の人を独占できるのって、 なんて贅沢なんだろうと思う。 毎日、顔を合わせることは 決して当た…

車内トラブル(2/2)

第1話「ふざけんなよ、こら」 不良男はなおもわけのわからないことを喚きながら、老夫を殴り続けた。近くにいたサラリーマンが止めようとしたが、殴られた。 「やめて下さい」と、老夫は両手を上げて懇願したが、不良男は暴行を止めなかった。老夫の顔は真っ…

車内トラブル(1/2)

「井の頭線の下りの終電にだけは乗りたくない」 東大出身の同僚、橋本はよくそう言っていた。 渋谷勤務になって数日も経たないうちに、私はその意味を理解した。 特に最後尾の車両はひどく、乗車率200%どころか、300%は越えてるのではないかと思った。 なの…

サイレン

ぴちゃり。 水の音がする。 目が覚めて、眠っていたことを思い出す。 朦朧とする意識が具象と化し、二秒前まで見ていた夢が霧散する。 ベッドから、素足で床へ降りる。 ひんやりとした感覚が足裏を包む。立ち上がると、思考はより覚醒へ向かう。 窓から吹く…

狩り

白く輝く無慈悲な太陽が 干上がった大地から 何もかも蒸発させる頃 私と彼女は 並走していた 灼けるような暑さも忘れ 私たちは ただ 明日を生き抜くためだけに 疾駆していた 心臓が 休むことなく 鼓動を刻み 全身が血流で満ちてゆく 一歩ごとに 蹴り上げられ…

7番街

7番街に降る雨が 罪の焼け跡 滲ませる羽根の折れた天使が 崩壊していく街から 私を連れ出してくれる大地が揺れて 石に閉じ込められた獣たちが飛び出す 怪異にあふれた山野を 私たちは駆けて行く破壊の巨神が 文明を蹂躙する 逃げ惑う人々 立ち向かう指揮者7…

サブアカウント

名前を呼んでほしいんだ 君が呼んでくれたら 僕はこの世界に 存在していられるから たとえ 呼ばれたそのときに 存在していなかったとしても 覚えておいてほしいんだ 一人でも多く 覚えていてくれたら 僕はこの世界と つながっていられるから たとえ この世界…

センサー

早朝5時。 うっすらと目を開けた智恵は、意識がはっきりしないままゆっくりと頭を左右に動かした。 薄暗いオフィスは閑散としている。プロジェクトの追い込みで徹夜した智恵以外には、誰もいないようだった。 途端、智恵は側頭部に衝撃を受けた。 為す術もな…