死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 5

目次へ 海外の教育事業者が開発した先進コンピューター・システムをいち早く取り入れたトキワガオカ高校では、実技を除く半数以上の講義はコンピューターによるインタラクティブ・ビデオ方式に置き換わっていた。一方で、従来型のホームルーム制度は健在だっ…

いつか詩人になれたなら 〜やさしく在りたい〜

いつか、 詩人になれたなら 君に、やさしい言葉を届けたい。 いつか、詩人になれたなら 世界を やさしい言葉で満たしたい 愛をささやき 光を尊び 瑕ひとつないきれいな言葉で 大勢の人に、やさしさを届けたい いつか、詩人になれたなら。 でも、 それだけじ…

天使と悪魔

左の部屋は 右扉の奥は 塵ひとつ無い バランスの狂った 清潔な部屋だった 奇怪な異次元空間だった 真っ白な部屋の中央に 空間の中央には 精巧な女神の像が どんな生物にも似つかぬ 飾られていた 異様な彫刻が在った 見るものを 人工物だとしても 虜にせずに…

#魔法技師のノート 〜あとがきめいたモノローグ〜

twitter で連載していた小説『魔法技師のノート』が完結しました! 第1話のツイートは8/3、最終27話のツイートは9/2なので、ちょうど丸一ヶ月の連載でした。 え? もう終わりなの? そんな風に思った人もいるかもしれません。 今回、ストーリー中に描ききれ…

死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 4

目次へ 「イマールさんなら何か昔のこと、知ってるかなと思って」 登校バスの中で、サクラはそう言った。 自動運転のバスは、いつものように通学路上の停留所を回りながら、学校に向かっていた。 『ローマニラの赤い薔薇期』とは、今を遡ること約三百年前、…

ハイイロオオカミ未満の何かのなかの何か

私の世界はいつからか灰色になった。 先生も灰色。友達も灰色。家族も灰色。あなたも灰色。 灰色の世界の中を 灰色の私が動く 食べ物はどれも不味く 音楽はどれも歪んでいた 「」 喋っているのに 何を喋っているのかわからない 自分が何を喋っているのかわか…

跳躍

小高い丘に ひとりきり寝そべって 青空を見上げていた いつまでも 飽きることなく 刻一刻と変わる 白雲の表情を追い続けていた 吸い込まれそう そう思ったとき ふと 地面から体が離れた 重力から解き放たれ いや、反転し、 真っ逆さまに 空に落ちていく 空に…

アバター

あなたにだけは知られたくない あなたにだけは知ってほしい あなたになら教えてもいい 本当の自分を 現実を生きている私を 真実、死んでいるような私を そこにあるのは 薄く、確かな境界線 一線を踏み越えれば 二度と元には戻れない あなたと私を守る壁を 壊…

死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 3

目次へ 「――何か、あったの?」 マンションの最寄りのバス停で。 アルフは今朝も、サクラ=ミズチに会った。彼女は高校の同級生であり、幼馴染でもある。アルフが「近しい」と感じる人たちの中の一人だ。 いつものように「おはよう」と、互いに挨拶を交わした…

エレクトロニカル・パレード

「ほんとうの君」はどこ? そう問いたくなるときもあった。 「別に、いいじゃないか」 『君』は確かに此処にいる その実在が デジタルな信号に過ぎなくても、 私はそんな『君』に惹かれたのだから 会わない方がいいこともある 会ってしまえば、きっと会う前…

死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 2

目次へ 第一章 「私を殺して」 初対面の僕に向かって、少女はそう言った。 彼女の全身は真っ赤な血にまみれていた。 周囲には、人の気配はない。 僕は後ずさりしながらも、彼女の手を振り払えずにいた。 声の出し方さえ、思いだせずにいた。 ◇ 『……ピピピピ…

感動と文芸創作の種類

もう何年前のことだろうか。シドニィ・シェルダンの『私は別人』という小説を昔、読んだ。 その小説の中で、一代で富を築いたトビー・テンプルという天才コメディアンが、修行時代に師匠に言われた言葉があった。 その内容をぼんやりと覚えている。 師匠「コ…

死を夢見る少女 〜最後の不死者〜 1

目次へ プロローグ 「ありがとう」 少女は満面の笑顔で言った。 今まで一度も目にしたことがない、眩しい笑顔だった。 その陶器のように白い腕から徐々に体温が削がれて、僕の腕から滑り落ちていく。 ――待ってくれ。 声にならなかった。何もかもが唐突すぎた…

「一人 Twitter 連詩」をやってみて

先日、Twitter 上で「一人連詩」なる試みをやってみました。 連詩は、本来であれば複数人で行うものですが、「小説の連載があるのだから、詩の連載があってもよいのではないか」という発想が裏にはありました。 一人で少しずつ詠んでいく、という形でも成立…

オフライン ~アナザー・デイ~

ケータイを 家に忘れた メールも、ネットも、ゲームもできない。 何もできない。 誰にも、何も連絡できない。 私と世界を結ぶ線が 今、何もない。 今日は一日、オフライン。 何をしていいか わからない 当て処なく 街をさまよう 道端の猫に愛想をかけてみる …

オフライン

ケータイを、家に忘れた。 帰る家をなくしたような 不安で落ち着かない気分 どうしていいのか わからない 私をどこかに繋ぐ線が、いま、何もない。 がたんごとん ふと、揺れる電車の鼓動に気づく ぷしゅっとドアが開く 靴音がホームに広がる 太陽がまぶしく…

マリアージュ

あなたと、わたし 別々の 役割を持って 同じ台地に 生を享け 暖かい海に この身を捧げる ああ、やっとひとつになれたね 灼熱のマグマで どろどろに融け合い 互いの境界線さえ 失った ――ラストダンス 誰かと誰かを結ぶため。 「踊ろうか」 彼の言葉に、私は耳…

私のいまの詩のつくりかた

中学時代、日常的に詩を書いていた時期があった。「どうしてそんなにたくさん書けるの?」クラスメートの女子にそう聞かれたことがある。「詩を書くのって難しくない?」と。「簡単だよ」私はあっさりと言ってのけた。「その日あったことを書けばいいんだか…

夏の日

「川を渡ろう」 夫が手招きする。 私は目を見張りつつも、差し伸べられた手をとる。 夫が淵に進んでいく。ねえ、と声を掛けるが止まらない。 夫は肩まで川に浸かり、頭を沈めた。 私は手を振り解こうとするが、できない。 苦しい。息ができない。 ブラックア…

"T"へ

明日はあなたとのつながりがひとつ、なくなる日です。ふつうの人よりは軽く考えていたかもしれません。が、それによって私とあなたとの間の「何か大切なモノ」がなくなるとは、私は感じません。 今までありがとう。そしてこれからも、よろしくお願いします。…

見送る人

川があった。 大きな川だった。 その川の中腹に、一人で立っていた。 ときどき、強い風が吹く。 そのまま川面に倒れ込んで、 流れに身を任せてみたくなる。 いつしか、辺りは暗くなっていた。 夏の夜の闇。 遠くから 祭り囃子が響いてくる 一つ、また一つと …

答えなき答え

崩れかかった建物の前、男が一人うずくまっている。 時折耳を揺らす物音に、顔を上げては、また下ろす。 とりわけ、人の足音には敏感に。 ――また、あんたか。 と、男は声にならない声で言う。 いつの間にか、音もなく老人が立っている。 ――もう、放っておい…

家鳴り

家鳴りがした。 海外出張と帰省を終えて、2週間ぶりに東京で一人暮らしするアパートに戻ってきたときのことである。 30秒毎に「ピシッ」と、金属製の弦が切れるかのような音がする。 不審に思って家具を調べたりするが、異常はない。どうやら床そのものから…

もうひとつのサーカス

薄暗いテントの中は、思ったよりもやや手狭だった。 小さな席に腰掛けると、隣の人と肩が触れ合うほどだった。 「すみません」 と、頭を下げながら、子連れの親が席を立つ。 私は何をすることもなくケータイの画面を眺めながら、開演を待った。 暗く 静まり…

2012年のライブ鑑賞を振り返って

今年はいくつか、アーティストのライブを観に行くことができました。 ということを、わざわざこうして書くのは、それ以前にライブに行ったことが一度しかなかったからです。 生まれて初めてライブ鑑賞に行ったのは、数年前、ある海外アーティストが日本武道…

星に願いを

会いたくて 今すぐ君に会いたくて 駆け出しそうになるけれど 僕がどんなに手を伸ばしても 君の足元にも届かない だから うんと努力しよう いつか 君と 肩を並べて 歩けるように いつの日か 君の隣に寄り添えたとき その輝きに 負けないように 君と同じだけ …

サーカス

彫刻の道化が 舞台の上に佇んでいる 暗闇のなかで 誰かが固唾を呑む音がする 彫刻が 手を振り出した先に 三振りの剣が現れた 剣は 次々に道化を離れ 宙高く飛び上がっては また道化の顔上に戻る 一つとして同じ軌跡なく 乱雑な無秩序でありながら 完全な制御…

詩のボクシング大会を観戦して

昨日、第12回詩のボクシング大会、及び、第4回声と言葉のボクシング大会が横浜で開催された。 私は一人電車で会場に赴き、両大会を観戦してきた。ひと月ほど前までは大会の日程すら知らなかったのだが、ちょうどこのブログの記事を書いているときにポエトリ…

いつか詩人になれるなら

いつか詩人になれるなら 世界中を旅して回ろう 草原を駆ける羊たちの群れを 湖に映る青空の影を 収穫を願う人々の踊りを 感じたものを 感じたままに 言葉に紡ぎ出せるように 世界中を旅して回ろう いつか詩人になれるなら 世界中でうたをうたおう 理不尽な暴…

風の駅(3/3)

第1話 第2話 フューに再会して七日後の早朝、ヴェントは誰よりも早く目を覚まし、馬とともにそっと王城を抜けだした。 嵐が来ていた。 強風に草は折れ、木は傾いでいた。馬が進むことをためらっていた。ヴェントは生まれて初めて、馬に鞭を振った。 風の駅か…